約物(やくもの)
別名:記述記号、約物ルール
句読点・括弧・中点・ダッシュなど、文字以外の記述記号の総称。用途ごとに使い分ける。
発注される方へ — この言葉が意味すること
約物とは、句読点、括弧、中点、スラッシュ、ハイフン、ダッシュといった、文字以外の記述記号の総称です。組版の用語で、印刷・デザインの現場で使われます。
医薬品資材で約物が問題になるのは、見た目が似ていて用途が違う記号が多数あるからです。
たとえばハイフンに見える記号には、半角ハイフン、エヌダッシュ、全角マイナス、長音記号、マイナス記号などがあります。画面上ではほとんど区別がつきませんが、それぞれ別の文字です。製品名や試験名に含まれる記号を別のものに置き換えてしまうと、原典表記からずれます。
中点も同様で、全角の「・」と半角の「・」があります。資材では全角を使います。
発注側で意識するとよいのは、修正指示で記号に触れるときは慎重になるということです。「ここのハイフンを長めに」といった指示は、制作側では「どの記号に変えるのか」が特定できません。意図を伝えるか、変更後の表記そのものを示すのが確実です。
制作する方へ — 実務上のポイント
約物の使い分けは、用途ごとに整理しておきます。
句読点 — 日本語の本文では読点「、」と句点「。」を使います。英文や統計の表記ではカンマとピリオドを使います。統計値の並びは英文の書式に従うため、ここが混在しやすい箇所です。
括弧 — ( )は補足や略語の説明、[ ]は参照や注記、〈 〉は効能別・剤形別などの区分、「 」は項目名・用語・引用、『 』は資料名・文献名に使います。括弧の内外のスペース、参照の表記、項目名を引用符で囲むかどうかは揺れやすいため、表・脚注・グラフの注記まで同じルールで確認します。
中点 — 並列や複合語に全角の「・」を使います。半角の中点は使いません。
スラッシュ — 単位や略記では半角を使います(mg/kg、mg/mL)。日本語の本文では乱用せず、「及び」「又は」への置き換えを検討します。
ハイフン — 英語の複合語やコードに半角ハイフンを使います。長音記号やマイナス記号と混在させません。
最も事故が起きやすいのが検索・置換です。似た記号を一括で置き換えると、製品名・試験名・原典表記の中の記号まで変わります。置換の前に、対象に製品名や試験名が含まれていないかを必ず確認します。
実例
ハイフンに似た記号の混在は、複数の担当者が別々の環境で原稿を作った場合に起きやすくなります。文書作成ソフトが自動でエヌダッシュに変換する、別の環境からコピーした際に全角マイナスが混ざる、といった経路です。
いずれも画面上は判別しにくいため、文字コードで検索して機械的に洗い出すのが確実です。目視での発見は期待できません。
括弧の使い分けでは、参照の表記が揺れやすい箇所です。電子添文の項番号を参照する記載は角括弧を使い、補足の説明は丸括弧を使う、という区別が資材内で崩れることがあります。本文では守られていても、表の中や脚注、グラフの注記で別の括弧が使われている、という形で残ります。約物のチェックは本文以外まで対象に含めます。
混同されやすい言葉
文字組みは、文字の配置や行の組み方全般を指します。約物はその中で扱う記号そのものを指します。約物の詰め方(括弧の前後をどれだけ空けるか)は文字組みの領域で、どの記号を使うかは約物の領域です。
表記統一は、語の書き方を揃える作業です。約物の使い分けはその一部として扱われます。表記統一が語そのものを対象にするのに対し、約物のルールは語と語をつなぐ記号を対象にします。